両面太鼓の一考察




2012年に一時帰国をした際に、東京は日野市に住むCuba帰りのパーカッショニスト間所直哉君

サンテリアで使われる太鼓 “バタ・ドラム” のレッスンに友人と一緒に参加してきた。

元々、僕はM・カルドーナ氏のアルバムBEMBEを昔聴いて 「どう演っているんだろう?」 とアタマを捻り。

それから、KENYAの海岸地方に住むミジケンダ系民族が使うチャプオを習うようになり、

入れ子式のアンサンブルに触れ、その面白さを実感するようになった。

バタは左の写真のように、大中小と3本の両面太鼓を3人で叩いて複雑なアンサンブルを創り出す。

1回だけのレッスンだったので、それほど多くのアンサンブルを学べたワケではないし

時折、間所君が見せてくれた色々な仕掛けも、我々が未熟な所為で少ししか見られなかった。

しかし、今回の体験レッスンで感じた事はDjembeで使われるDUNDUNに似ているなあ。。と云う事。

片手がベルで、もう片方を棒で叩くDUNDUNとは奏法こそ異なれ、その発想は近いと思う。

まあ、リズムの種類や云々は違う太鼓だから仕方が無いが、バタのスペシャリストはDUNDUNも

ワリと楽にマスター出来そうだし、その逆もあるであろう。

また、ケニアにあるチャプオとカンバ族がムベニで使うNGOMAと、それなりに慣れ親しんだ僕に

謂わせれば、タッチに関してはチャプオの方が難しい。特にセンゲニャ等のンゴマ・ンネを駆使する

連中の方が遥かにウルサイし面倒臭い(笑)、多分、センゲニャ系のチャプオをマスターした者は

バタのリズムと仕掛けのみに集中して学ぶ事が出来る筈だ。

ギリアマ族のそれはンゴマ・ンネ系の連中と比べるとそれほどうるさくない(笑)

これは、3本の両面太鼓のみで進化していったバタと、2本の両面太鼓+4本以上の太鼓が組み合わさって

構成される太鼓のセンゲニャ等のNGOMA、そして、あくまでもダバや大勢の歌声と共に、強力な太鼓

ムションドを支える側(サポート)に立つギリアマ族のNGOMAの違いだろう。

カンバ族のムベニは巨大な両面太鼓を使い、なんと、叩くのは片側だけで、反対側は音色を変える為の

オープンとミュートのみに使われるのだ。これはヒジョ〜に非合理的で片手が疲れる(笑)

ピーピーと笛を吹き鳴らしながらアクロバティックなダンスをするNGOMAだから、両面で豊かな

サスティンのあるトーンと、それほど速くないパッセージのスラップ音で良いからだろう。

リズムの構造的にはギリアマのマブンブンブ等に於けるキメキメ路線なので、ポリリズミックなインテンポを

強調する必要も無い。踊り手達が次々と決める派手なキメとユニゾンする役目なのだから。。。

因みに、リズムやアンサンブルの構成以外に僕はその各オリシャ等への興味は全く無い。

学ぶ上での教養や一般的知識以上を掘り下げる必要も無いと思っている。

それは同じく僕が専門に学んでいる(いた)ギリアマ族のNGOMAの一種 “NGOMA ZA PEPO” に於いても

全く同じスタンスである。兎に角、この辺の憑依儀礼や呪術云々で使われるNGOMAは

そのアンサンブル、リズムの構造自体に強力な魅力を持ち、恍惚感や陶酔感を感じられるモノだが、

別にムガンガになったり、有名なムガンガのお抱え太鼓叩きを目指すのでなければ、余所者の僕に

そこまで掘り下げる必要も無いし、逆に言えばそこまで行かない連中が何を語ろうが無意味とも言える。

バタはヨルバ族系の奴隷がスペインのカソリックと混ざって云々だそうだ。

では、最近では数人いる日本人のバタ叩きで、IFEへでも行って実際のヨルバランドで

グドゥグドゥやイヤ・イル等も入ったバタのアンサンブルも修めるとか、そういった連中は皆無なのだ。

もう数世代先にならんとそこまで普通に学べる連中が出て来ないのか?

これでは少し寂しい気がするし、片手落ちだろうと思う。他にも例えば

HAITIのヴードゥであれば、ベナンでも行ってフォン族の憑依儀礼でも学び、そことその周辺の

NGOMA的に強力な影響力を持つ民族達の太鼓アンサンブルを学び、これを修め、

そして、各自がそのサンテリアだろうが、ヴードゥであろうが、カンドンブレだろうが、、、学び始めた

切っ掛けのNGOMAに戻れば、それこそ、呼ばれてもいないのにワザワザ異国の地に行って

そこの奴隷貿易の歴史の上に成り立つ仇花とも呼べるNGOMAを学び

それを外国人が演奏する意義が見えて来ると思うが、、、

こういった事は、本人の強い好奇心と豊かな才能、そして大胆な行動力が必要なワケで

18歳でケニアへ来られた僕よりも、更に下の世代がたかだかCUBAやHAITI、BRAZIL等のNGOMAを学び

そのルーツを知っている筈なのに、そこへ向かおうともせず、ただそれだけで満足しているのは

「なんだかな〜」 と思うと共に、精霊云々を聞かされると 「はいはい」 となってしまう。

僕の経験では、この手のモノは奥が深いし、もの凄く面白いモンだ。

それを才能も無けりゃ、大学内の予算を取る事と、自分の生活云々で頭がイッパイの下らない

日本の文化人類学者達に任せておくのは非常に勿体ないと思ってしまうのだ。

最後に、間所君のバタ・アンサンブルのレッスンは丁寧でとても良かったです。

裏拍が取れないとか、複数の太鼓のアンサンブルでスグ自分のパートを見失ってしまうとか、

3つのケツ抜き、アタマ抜き、中抜きに問題があるとか、、、他の太鼓がメインでも、

そのアンサンブルを学ぶのは必ず役に立つ筈。

願わくば、もっと近くで、太鼓の耳もキレイにしてあったら、、、もっと良かった(苦笑)



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左からオコンコロ・イトテレ・イヤと呼ぶ。


Milton Cardona氏のBembe。一連の
儀式を最初から最後まで録音した感じ。
結構、面白い。


カンバ族のムベニと呼ばれるNGOMAと
思われる。残念ながら踊り子の写真は無し。


本場ナイジェリアのヨルバ族のバタ太鼓達。


ハイチのヴードゥで使われる太鼓達。叩いた
感触も僕には身近に感じられる。


こちらがベニンの太鼓達。みんな上手そう。





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